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スペシャルインタビュー目次
福岡国際マラソン選手権大会に強い思いを抱く藤田敦史。来夏の世界陸上選手権(大阪)の選考会をかねる同大会で、日本人トップで、2時間9分30秒を切ることを目指す。2000年に優勝し、当時の日本記録を作った地で、藤田は再び輝きを取り戻すべく、トレーニングのラストスパートをかける。
この「特別企画:福岡国際マラソンで世界を掴む〜藤田敦史の素顔に迫る〜」では、藤田が陸上を始めた中学時代から、福岡国際マラソンに賭ける思いにいたるまでを全4回シリーズでお伝えします。第4回目は、日本記録を樹立した2000年の大会を振り返っていただき、今年の福岡国際マラソンの理想的な展望を語ってもらいました。
インタビューア:長富 怜子

「『11月の福岡』が理想」
大会まであとわずかとなりましたが、福岡国際マラソンとは、藤田選手にとって、どういう大会でしょうか?
福岡国際マラソンという大会自体、すごい歴史があって、そうそうたる選手が過去に走っていらっしゃるというのを、実は後から知ったんです。「福岡国際マラソンって言ったら、すごいんだぞ」ということを、確か大八木さんから聞いたと思います。「そうなんですか」くらいにしか思っていなかったのですが、後から「いや、すごい大会なんだな」って思いました。そのすごい大会の歴史の1ページに、自分が優勝者として残れたことは、非常に光栄なことですし、あの大会が自分を飛躍させてくれた大会でした。今は海外レースとか、高速レースとかありますが、やはりあそこがいいな、というのがあります。
シカゴマラソンでは2時間5分台の記録が出たりもしていますが、それでも国内のほうがいいのでしょうか?
はい。シカゴとか、ベルリンとか、ロンドンとか、いろいろとありますが、あまり興味がないというか、福岡でもいいだろう、という気持ちがあります。
おそらく、記録は海外のほうが出やすいのかもしれません。ただ、私が福岡で6分台で走るまでは、国内で、6分台が出たのは、東京国際マラソン(1999年2月14日)で、ゲルト・タイス(南アフリカ)選手が2時間06分33秒で走るまでは一度もなかったんです。それまで、国内で6分台は絶対に出ないと言われていましたし、ましてや日本人選手が国内で6分台を出すのはあり得ない、と言われていた時代でした。
それまでは「海外に行かないと無理だろう」という固定観念がありましたが、自分が福岡で6分台を出してからは、「あれ?国内でも出るよ」という感じで、あまりコースがどうとかは関係ないのでは、と思い始めています。完全に固定観念がなくなりました。
それから12月という時期も多分、一番合っていると思います。私の場合、割と長い期間をとって、練習をやるので、海外マラソンの4月とか、9月とかですと、自分の中のバイオリズムと合わないんです。誕生日が11月だからかもしれませんが、秋が私にとって、すごくいい時期なんです。体調が秋になると上がってくるんです。
ベルリンとか、シカゴとか、レース自体は9月とか、10月ですが、出場するためには、5月とか、6月から練習をやり始めなければいけません。その頃は、あまり体調が良くないので、練習をしてしまうと、多分、故障してしまうと思います。そういう意味で、福岡の12月というのが合っているんでしょうね。例えば、福岡が3月だとしたら、また話は変わってきます。
ただ、12月だと気温は低めですよね。
そうですね。できれば、12月の福岡より「11月の福岡」くらいがちょうどいいですね。日本記録を出した時も、12月にも関わらず、16℃くらいあって、かなり暑かったです。雪国出身なんですが、冷え性で、寒いのが全くだめなんです。すごく弱々しい話なんですが…。足の感覚がなくなってしまうので、暑ければ暑いに越したことはありません。
真夏がものすごく大好きで、練習もやる気になります。また、血行がいいので故障が少ないんです。逆に冬は、足先の感覚がなくなるくらい冷えてしまうので、どうしても、くるぶしから下の故障が起きてしまいます。血行障害の状態で走って、足を痛めることが多いので、寒いのだけは勘弁してほしですね。
「走るにつれ、日本記録の可能性が高まってきた」
2000年の福岡国際マラソンで目標にしていたのが2時間8分台でしたが、実際は、2時間6分台で走りましたよね。その時の率直な感想は?
「あまり大きなことを言って、結果が出なかったら嫌だな」というのがあったので、とりあえず、「8分台くらいで」と言っていました。実際は、7分台のタイムを狙っていましたが、その時はタイムよりも優勝に対するこだわりの方が強かったです。優勝タイムは8分台くらいかな、というのが頭にあったのも、8分台と話していた理由のひとつです。
しかし、距離が進むにしたがって、最初のうちは「これなら、8分台は出るな」と思い、また進むうちに「これなら、7分台かな」、最後の方になったら「いや、これは6分台かな?」と、どんどん自分の中で、走りながら可能性が広がっていきました。
途中、30kmあたりでタイムが落ちましたが、6分台の自信が消えることはありませんでしたか。
あの時は、選手が絞られて、駆け引きが始まっていたためタイムが若干落ちました。前で走っていると、どうしても風よけみたいにされてしまい、体力を使ってしまうので、後ろに回りたいわけです。ただ、その当時、私と一緒に走っていた、アベラ(エチオピア)というシドニー五輪の金メダリストがどうしても前に出てくれなかったんです。私も前に出てほしいからペースを落として、彼も前に出たくないから、ペースを落として、とやっているうちに、どんどんペースを落ちてきてしまいました。
2人でけん制してしまったので、「これでは、もうタイムは出ないな」と思っていました。完全に優勝争いに狙いを絞っていました。しかし、折り返してから、追い風が吹いていたんです。「これなら前に出ても、後ろにいても、あまり変わらないな」と思って、自分が前に出て行ったのが、多分よかったんだと思います。ペースが落ちたところを最小限に抑えられたことが、最終的に、日本記録につながったのではないか、と思います。
「ペースメーカーを使って勝負することをたくらんでいます」
福岡国際マラソンの理想的なレース展開を教えていただけますか。
やはり後半に抜け出すことが理想ですね。今のマラソンでは、25kmから30kmくらいまで、ペースメーカーがついて走りますので、ペースが安定します。極端な話、30kmまではウォーミングアップとよく言います。30km以降、ペースメーカーが離れた時に、いかに自分が前に前に行けるかが大切なので、後半で、日本記録を作った時のような走りができたら、勝てると思います。
折り返しから35kmくらいがキーポイントになると思います。私たちは最後のスプリント力がないので、トラック勝負に持ち込むと負けてしまう可能性があります。その前にロングスパートをして、勝負をかけないと勝機はないと思っています。
走りながら、何を考えていらっしゃいますか?
時と場合によりますが、ペースメーカーに対して文句ばかり言っています。それから、殺気立っていることもあり、ぶつかってきた選手に対しても、怒りを覚えることもあります。
特に去年の福岡の時は、風がすごくて、雨が降っていて、気温がすごく低くて、最悪なコンディションでした。その中で、ペースメーカーが設定ペース以上のペースで行ってしまいました。初めに、大体何分何秒で行ってくれというのが、契約で決められていて、その設定ペースで行かないと契約金がもらえなくなってしまうんです。そのため、どんなに風が強くても、頑張ってしまうわけです。無風な状態の1km3分ペースと、ものすごい向かい風の中での1km3分ペースだと、力の使い方が全然違うのですが、ペースメーカーが、設定ペースで行ってしまうと、30km以降に余力が残っていないんです。
レース当日のコンディションによって、設定ペースが変わる、ということはないのでしょうか?
だいたい前日の天候を見て、ペースを設定するのですが、当日の天候によって、変更することもあります。たとえば「今日は向かい風がきついからペースをちょっと落として、このくらいで行ってくれ」という指示を出します。あとは、ペースメーカーの善し悪しが重要になってきます。去年のペースメーカーは、あまり良い選手ではなかったんです。
去年の設定ペースは、5km15分05秒〜10秒と決められていました。1kmに換算すると、3分01秒〜02秒なんですが、当日、向かい風が強かったので、最初は少し抑え気味でいいよ、と言われていたようなんです。しかし、実際は、前日の設定ペースくらいで行っていました。ただ、同じ5km15分ペースでも、1km3分イーブンのペースで刻むのと、最初の1kmが3分10秒、次の1kmが2分50秒、その次の1kmがまた3分10秒かかり、さらに次の1kmが2分50秒で、最後が3分となると、同じ5kmで15分になるものの、ペースがアップダウンするわけですよね。レースの中で、タイムを上げ下げしたりするインターバルトレーニングを行なっているような感じでした。
優秀なペースメーカーだと、一定のペースで行ってくれるのですが、出来のよくないペースメーカーだと、ペースが上がったり下がったりしてしまうんです。去年の福岡もまさにそうで、初めの頃から余力がなくなってしまい、やはり後半からは、勝負になりませんでした。
ペースメーカーについていかない、という選択肢もありますよね。
それも考えられるのですが、ペースメーカーが速いからと言って、集団から離れて、1人で走るとしますよね。そうすると不思議なことに、集団で速いペースで走っている時よりも、自分1人で遅いペースで走っている時のほうが、断然きついんです。集団の力というのがあって、集団で走っているうちは、割と楽なんですが、1人になると自分でペースを作らなくてはいけなくなるので、その辛さが出てきて、疲れてしまいます。ですから、どんなにペースが速くても、ペースの上げ下げがあっても、集団で行った方が、結果的には、良い結果というか、余力が残っていると思います。
そのため、ペースメーカーの善し悪しによって、大会の結果がかなり変わってきます。去年、福岡で走り終えてから、大会関係者と話をする機会があったのですが、「来年からはペースメーカーを変えてください」とお願いしておきました。
ただ、外国人選手がよくやるのですが、ペースメーカーを使って、勝負する選手もいるんです。例えば、同じ集団で走っていた時に、ライバルの選手は必ず覚えていますので、周りを見渡して、その選手の表情がきつそうだなと感じたら、ペースメーカーのところに行って、何かを言うんです。そうすると、ペースがいきなり上がって、そのきつそうだった選手が離れていくわけです。それはすべて駆け引きであり、作戦なわけですが、去年はスペインの選手に15kmくらいのところでやられてしまいました。ペースがものすごく上がって行くにも関わらず、「もっと上げろ」という指示をして、ペースメーカーも言うことを聞いてしまったんです。
ペースが上がって、日本人選手は、私以外は離されてしまいました。海外選手は、それだけで食べている選手ばかりなので、どんな手段を使ってでも、勝ちたいわけです。卑怯と言えば、卑怯ですが、別に相手を転ばせたとかではないため、仕方ありませんいつかは私も「やってやろうかな」と思っています。調子がいい時に、ペースメーカーに「もっと行け」ということをちょっとたくらんでいます。
走っている最中、周りの景色を楽しんだり、観客の声が聞こえたり、ということはありますか?
よく一般の方からも「走っているときは、何を考えているのですか?」と聞かれるのですが、余裕のある時に限っては、景色を見たり、観客の声を聞いたりしています。観客の声は、結構聞こえてきます。
ただ、レース中は、常にライバルの表情を見ているので、あまり考えている余裕がないです。独走になったらなったで、今度はタイムを気にしたり、「どのくらいでいけるかな?」とか、「たぶん、このくらいのタイムでいけるな」ということを考えたりしています。

「大八木さんがいたからこそ一人前になれた」
今回、どのくらいのタイムを狙っていらっしゃいますか?
今、自分の記録が、2時間06分51秒なのですが、希望としては、もう一度、日本新記録を奪回したいなという気持ちがあります。だから、2時間06分16秒という高岡さんがもっていらっしゃる記録を更新したいですね。さらに、世界に目を向けると、2時間4分台に入っていますので、世界とはかなり差が出てきています。まずは、2時間5分台に入れるようになりたい、というのがあります。
私1人だけではなくて、日本人全体として、2時間5分台に入れれば、お互い切磋琢磨して、もっともっといけるのではないか、と思っています。今は、あまり記録が出ていませんが、2時間5分台は、調子と条件さえ整えば可能だとは思います。
藤田選手にとっての条件とは?
冬でもちょっと汗ばむくらいの暑さで、風のない状態ですね。それが私にとっての一番いい条件です。それからもちろん、快晴がいいです。
追い風よりも、無風の状態がいいのですか?
無風の方がペース感覚を自分で把握できます。例えば、向かい風だとものすごく頑張っているのに、「こんなペースなのか」と思ったり、逆に追い風だと、自分ではこのくらいのペースで行っているはずなのに、「ちょっと速いな」ということになって、自分の体内時計が狂ってしまうんです。
無風状態ですと、自分の感覚と同じペースで行けて、「あ、このペースなら調子がいいな」と確認できるんです。ですから、追い風より、無風の方がいいですね。ただ、きつくなってからは、追い風の方が助かります。
そういう感覚が大事なんですね。
自分で言うのも何なんですが、私は感覚をとても大切にします。今は、昔の根性論というか、「水も飲まないで走れ」みたいなことはなく、どちらかというと科学的な視野でトレーニングを行ないますよね。例えば、乳酸値を練習直後に計って、血液中に乳酸がどれだけたまってきているかによって、トレーニングの量を調整していくこともあります。しかし、私はそういうのが好きではありません。
乳酸値を計って、「これ以上やったら疲れが残るよ」と言われたとしても、自分の感覚で「まだやっても大丈夫だな」と思ったら、やればいい。「乳酸値がまだだから、やっていいよ」と言われても、自分がきつくなったり、「これ以上やったら、もう危ないな」と思ったら、やめるようにしているんです。
やはり、自分の感覚を頼りにしていたいです。もちろん、貧血で随分悩まされてきたので、血液検査での値や、体重など最低限の数値は参考にします。それ以外は、ほとんど参考にしませんね。筋肉の状態がこうだから、こうしなさい、と言われても、自分の感覚と違っていたら、やはり自分の感覚を信じたいです。今の科学的なトレーニングからみたら古いとは思いますが、自分の感覚でやった方が悔いが残らないと思うんです。
駄目なら駄目で、諦めがつきますが、科学的なトレーニングを取り入れて、病院の先生のアドバイス通りにやっても結果が出なかったら、結局、相手のせいにしたくなってしまいます。「あそこでこう言われたから、こうなってしまった」みたいなのは嫌ですし、自分でやったことは、自分で責任を取りたいです。
ただ、大八木さんには「人の話を聞かない」と言われますね。しかし以前は、自分の感覚を大事にするあまり、人の話を全然聞かずに、自分の意見が一番正しいと思っているところがありました。最近は、その辺をうまくできるようになったと思います。
人の意見を全てうのみにはしませんが、人の意見を聞いて、一度、自分の中のフィルターを通します。フィルターを通すことによって、自分流にアレンジして、どのようにしたら自分に合うかを考えます。それでも大八木さんに言わせると「まだ人の言うことを聞かない」ということなんですが、少しは成長してきたかな、と思います。
大八木さんは厳しい方でいらっしゃいますから、お互い衝突する、ということもあったのではないでしょうか。
そうですね。厳しいというか、やはり情熱のある方ですね。これだけ長い間付き合っているわけですから、陸上に限らず、人としての生き方、あり方といった人生の勉強みたいなことも指導してくださいます。先ほども言った通り、自分の感覚を大事にするので、言われても納得できないことが、今まで結構ありました。
「大八木さんはこう言っているけど、自分としては納得いかない」とか、「違うのではないか」など、今でこそ受け入れて、聞くことができますが、大学生の時は若さゆえ、少し言葉はわるいですが「何だこの野郎」みたいなことがありました。何回か衝突したこともあります。
今の学生は多分できないと思いますが、私は「違うと思います」と言い返していたんです。大げんかになったこともありました。しかし、そういうことがあったからこそ、腹を割って話せるほどの信頼関係ができたと思います。大八木さんがいたからこそ、競技者としてだけではなく、人間として成長できたと思います。若い頃はとてもそのように思えませんでしたが、今思うと、大八木さんがいたからこそ一人前になれたので、とても感謝しています。
最後に、藤田選手にとって「マラソンの魅力」とは何でしょうか?
実際、この間の取材時にも話したのですが、例えば、私の42.195キロの記録、2時間06分51秒を1キロごとに換算すると、3分ちょうどくらいになります。1キロ3分なら、小学生でも全力なら走れるペースですよね。あくまで1キロごとに切ったペースですが、簡単に言えば、2時間06分51秒のスピードを小学生でも体験できるわけですよ。ただ、それを42回連続で続けるということが凄さであって、他の人には体験できないことなんですよね。
よく、マラソンをやっている人でも35キロからの壁、とよく言う人がいるのですが、35キロを越えると、やはり自分の体が変わってくるんです。医学的には、人間の体はどんなにエネルギーを溜め込んでも、35キロまでしか蓄えられないらしいです。
実際、レースは42.195キロあるので、あと7.195キロはどこからエネルギーを出すんだろう、ということになりますよね。それは自分の脂肪を燃やして走るらしいです。脂肪を燃やすとなると、たくさん脂肪がある人の方が強いのでは?ということになりますよね。ただ、脂肪を燃やす運動というのは、トレーニングによってしかできないらしいです。普段何もしていない人が脂肪を燃やそうと思っても、できないそうなんです。ですから、同じマラソン選手でもそれができるか、できないかだけで35キロから明暗を分けてしまう。そういう意味でも、1キロなら体感できるかもしれないスピード感を42回連続することが、マラソンの魅力であり、凄さなんでしょうね。

Last Message
今年も福岡国際マラソンを走ります。今のところ、順調に来ていますので、昨年勝てなかった福岡で、リベンジして、優勝したいと思っています。来年は大阪で、世界陸上があり、その選考会ともなりますので、みなさんの声援の下、しっかり走れるよう、頑張ります。応援よろしくお願いします。


